動物病院で、人用の製品が多数使用されているのはなぜか?
人の病院で使用される医療機器は100%人用医療機器です。
一方で、動物病院の中で使用される医療機器の内、約4割は人用医療機器となっています。実は医療機器だけではなく動物病院では医薬品も約半分が人用医薬品、医療消耗品もそのほとんどが人用です。
なぜ、動物病院では、動物用と人用を合わせて使うのでしょうか?
それは単純に動物用医療機器や動物用医薬品、動物用の医療消耗品だけでは種類が少なく、動物病院で必要な医療機器や医薬品、医療消耗品のすべてをカバーできない為です。
人用製品を動物病院で兼用しても、問題が生じない場合もたくさんあります。
しかし、当然ながらの人と動物では様々な違いがあります。以下の表にその違いをまとめました。
人と動物の違い | |
身体的特徴の違い | ●体の大きさ、●骨格、●体毛の多さ、●必要な栄養素、●寿命の長さ、●成長スピード、●マーキング等の行動、 ●なりやすい病気 |
その他の特徴の違い | ●人と動物間での細かいコミュニケーションが出来ない。 ●動物自身が医療処置の必要性や危険性等の判断や理解が出来ない。 |
この違いによって、既存の人用医療機器を動物に転用しようとすると、医療機器の種類によっては、動物に使用できない場合や、人用医療機器の一部だけを改良した動物用医療機器では、人に使用する場合には生じない不便や手間が生じ、動物への負担をかけてしまうといった事例が生じています。
また、間違った使い方や、メンテナンスの不実施によって医療機器の測定精度や治療効果が低下してしまうといった問題が生じる場合もあります。
このようなことが原因となり、人医療では医師や看護師が医療現場で頻繁に使用されている医療機器であっても、動物医療(獣医療)では獣医師や動物看護師が医療現場で使用していない、使用することが出来ないといった問題や、医療機器が動物医療(獣医療)の現場に合っていないにも拘らず、獣医師や動物看護師は他に選択肢がないため、そのような医療機器を使用せざるを得ないといった問題が発生しています。
大手の医療機器メーカーが動物用医療機器を開発しにくい理由
医療機器や医薬品は1から新規開発するには多額の開発費が必要になります。大手医療機器メーカーや大手医薬品メーカーは、規模が小さい市場には、積極的には参入しません。
人医療の市場規模と比較して、動物医療(獣医療)の市場規模が小さいことから、大手メーカーは人用の製品開発を優先しているのが現状です。
また、動物医療(獣医療)に参入する場合でも、大手メーカーは市場規模によって新規開発する製品の予算を決定するため、動物用の医療機器や医薬品を1から新規開発することは少ないのが現状です。
そのため、既存の動物用医療機器は人用医療機器の一部を改良して動物用として転用するか、人用の一部のみを改良し、動物用として転用した輸入品を海外から輸入して、動物用として販売しているケースがほとんどです。
人用医療機器と動物用医療機器の違い
では、動物病院で使用される人用医療機器と動物用医療機器は具体的にどのような部分が異なるのでしょうか
まず、医療機器は人用・動物用に関係なく、主に以下のような3種類に分類できます
医療機器の分類 | 各機器の役割 | 機器の具体例 |
モニタリング用医療機器 | 24時間連続的に測定を行い、測定値の時間的な変化を監視する医療機器 | 生体情報モニタ・セントラルモニタ |
検査用医療機器 | 非連続的に測定値が基準値以内か、測定波形や測定画像に異常がないかを確認するための医療機器 | 血球計数器・血液ガス分析装置・超音波診断装置・X線撮影装置 |
治療用医療機器 | 治療に用いる医療機器 | 麻酔器・人工呼吸器・電気メス・輸液ポンプ・シリンジポンプ・ |
この3種類で、動物用医療機器と人用医療機器の違いをまとめると以下のようになります。
種類 | 動物用医療機器と人用医療機器で同じ部分 | 動物用医療機器と人用医療機器で違う部分 |
モニタリング用 | ●センシングしたデータを処理する機器の制御方法に大きな違いはない。 | ●動物は体格や体毛等の影響で生体信号をセンシングしにくい。人と動物では生体情報のセンシング方法や使用するセンサーの仕様が異なる。 |
検査用 | ●検体検査や画像検査を完了させるまでの機器の制御方法に大きな違いはない。 | ●検体検査は動物の検体と人の検体は異なる部分があるためそれぞれの検体に合った機器の設定や調整が必要 ●画像検査では動物と人では骨格や臓器の位置や大きさが異なるため、その特徴に合わせて機器の設定や調整が必要 |
治療用 | ●治療機器の作用機序や動作原理・制御方法に大きな違いはない | ●動物と人では体格や体重が異なるため、治療機器の設定や調整が必要 |
弊社では、人医療の医療機器管理の経験や、開発経験をもとに、人医療では医師や看護師が医療現場で頻繁に使用している医療機器の中で、動物医療(獣医療)では人と動物の様々な違いによって、使用することが出来ない医療機器をピックアップして、人用医療機器の仕様を、動物専用の動物用医療機器として一から設計し直し、獣医師や動物看護師のニーズに合った動物医療(獣医療)の現場に合った動物用医療機器の開発を行っています。
別の記事で、弊社が行った具体的な動物用医療機器の開発事例をご紹介します。
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